生殖医療は、チームでカップルの妊娠をサポートします。その中でも、お預かりをした精子、卵子を取り扱うスペシャリストが胚培養士です。培養士の集まる培養部は、特に生殖補助医療の実施に大きな役割を果たします。ここでは培養士とその仕事についてご紹介します。

胚培養士とは

培養しているようす

カップルからお預かりした生殖細胞(精子、卵子、胚)は、大切な命の源です。妊娠という結果を出す技術を裏打ちする知識を持ち、訓練を受けたスペシャリストが培養士です。

胚培養士の資格

生殖細胞を扱うには、高い倫理観、豊富な知識、高い技術が必要です。その仕事は、医師が他の業務と並行してできるものではありません。これまでは、日本卵子学会と日本臨床エンブリオロジスと学会の学会の認定が客観的な評価となっていました。培養士の国家資格制度ができるまでは、現行の制度の中で学会認定を受けることが当院の方針で、若手の培養士の育成を行なっていきます。

胚培養士の仕事

培養士の仕事は、生殖細胞を扱う日常業務だけでなく、生殖細胞を扱う培養室や培養液、培養器等の保守安全管理、患者への啓蒙活動、治療成績の向上に向けた研修と研究、日本産科婦人科学会への報告等多岐にわたります。当院では、各種マニュアル(手順書)を準備し安全な運用を行なっています。

培養室業務

  • 精液検査
  • 精子調整
  • 精子凍結/融解
  • 採卵時の卵の検卵
  • 胚観察
  • 胚凍結/融解
  • 授精操作
  • 培養液準備
  • 患者説明

管理業務

  • 培養液管理(浸透圧/pH)
  • ガス管理
  • 液体窒素管理
  • マニュアルの整備・管理
  • 凍結卵子/胚/精子の保管管理
  • 備品管理
  • ARTに関わるデータ管理
  • 学会へのデータ登録
  • 同意書管理
  • 報告書/記録用紙の作成

研修と対外業務

  • 技術取得と維持
  • 学会と研修会の参加/発表
  • 研修制度での技能評価
  • 論文作成
  • 講演

危機管理業務

  • 非常警報システム待機/対応
  • 非常時の対応方法検討/アップデート(停電、地震、火災等)
  • 取り違え防止への取り組み

培養室の安全管理/品質管理

01.培養室内空調管理

培養室は陽圧環境を維持し、HEPAフィルターを介して常にクリーン状態を維持しています。また精子、卵子、胚に対して悪影響のある空気中のVOC(Volatile Organic Compounds:揮発生有機化合物)を可能な限り除去するため専用のVOC除去空気清浄機を導入しています。

02.機器管理

培養室で使用する機器類に関しては定期的なメーカーによるメンテナンスの他、常に日常的に異常がないかどうか動作確認、ガス測定等のチェックを行っています。
また複数台機器の所有、別手技での対応方法等故障しても業務が継続できるよう対応しています。

03.培養液等試薬管理

現在市販されている培養液は各メーカー出荷前に大変厳しい検査をしており、原則質の担保はされています。ただ、手元に届いた培養液が問題ないかどうかさらに当院ではロット事に浸透圧検査、インキュベーター使用培養液のpH測定を行い、使用直前まで安全性を確認しています。また培養液は専用の薬品保冷庫にて遮光状態で常に管理しています。

04.ガス管理

ガスの安定供給のため、ガスの配管を2系統準備し、ガス圧の低下があれば自動的に別系統からガスが供給されます。ガスの発注を定期的に行うだけでなく、予備のガスボンベも用意して万全の体制で安定供給します。生殖細胞に有害なVOS(揮発発生有機化合物)の発生を抑えるだけでなく、培養器へは専用の除去フィルターを通してクリーンなガスを供給します。

05.警報システム

培養士による定期的な管理だけでなく、培養器及び凍結保存タンクは常時その状態を監視システムで見守っています。温度やガス濃度が設定から外れた場合のほか、停電や機器の不具合で監視システムの通信が遮断された場合にも、速やかに異常がメールで管理者に届きます。その後迅速に対応できる体制が整っています。液体窒素に関しても、重量を随時計測して異常は速やかに通報、必要な対応がなされます。

06.災害対策

【地震対策】
クリーンベンチ、インキュベーター等、揺れによる機器類の移動、転倒の恐れのある物に関しては専用の耐震金具および耐震用ゲルで移動防止、転倒防止を施しています。

【停電】
当クリニックがある『大宮情報文化センター(JAC大宮)』は超大型自家発電機が完備されております。また発電用の燃料も備蓄されており、短期間の停電だけでなく数日の停電においても必要な電源が供給されます。
また防災センター、警備会社も同一建物内に24時間体制で常駐しており、防犯、防災に関しての対応は十分に備えています。

【防犯】
ビル内に防災センター、警備会社が24時間体制で常駐しており、通常の防犯、防災にあたっています。クリニック内も防犯カメラの設置、必要な場所では部屋ごとの入退室管理を行うことで安心な生殖医療を提供しています。

緊急時凍結対応に関して

地震等の災害に伴う停電に関しては、超大型発電機のバックアップがあり培養の継続は可能ですが、安全性の確保が難しい場合や社会インフラの状況で治療の継続が難しい場合には、緊急凍結をする場合があります。当院の緊急管理マニュアルに沿って、妊娠の可能性のある胚のみを凍結します。その後の治療の再開は相談して行います。